灰色の棚

適当な話を適当に書くので、適当に見ていってください

短編小説を書いてみよう! 「夏の日のこと」です。


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 こんな企画があること、目にした時は気に留めていなかったのですが、今日Twitterでフォローしている方々が盛り上がっていて興味を持ちました。

 この企画ですね。


 小説はなんども「書きたい!」「書くぞ!」とチャレンジしては敗退しているので、またチャレンジしてみようと思い、書いてみました。

 お題は「りんご」です、一応発想元はそこからだし、小道具として入っては居るんですが、微妙~な小道具扱いになりました。まぁ、しかたないか。

 小説を書いた経験は、「長編を書こうとして数話で挫折(黒歴史)」「掌編を何本か」という程度です。サイトでアップしたことあるけどね、ほぼ読まれてないけどね。という。この程度でも初心者枠からは外れちゃうんだろうか……。


 ま、とりあえず書いたものをアップします! よかったら感想くださいな。

 では、これです!

夏の日のこと

 昼間の暑さが嘘のように心地よい風が吹いている。普段よりにぎわいのある駅前の公園で、ひとりの少年が誰かを待っていた。緊張しているような、嬉しいような、不安なような、そんな様子で周囲を見渡していた。周りには同様に人を待つ者の姿や、着飾った女の子の姿が見て取れる。しかし、少年の眼中には入っていない様子で、ただただ誰かを待ち続けているようだった。

 そして、時計の長針が真上を指そうかという頃。少しぼんやりしていた少年はふと駅の方を向くと、少しだけ顔を綻ばせた。視線の先にいた少女も同時に少年に気づいた様子で、明るい笑みを浮かべた。二人は近づき合い、一言二言ぎこちなく声を交わすと、より一層笑顔になった。そうこうしている内にさらに人が増えて来て、くるくると表情を変えながら明るく笑う少女と、戸惑いや緊張を隠せないながらも優しく笑う少年は共に公園を後にした。


 少し歩きづらそうながらも軽快に歩く少女と、少しゆっくり目に歩こうとして置いて行かれそうになる少年の間には、やわらかな時間が流れていた。少女が少し前に出たかと思うと着ている華やかな浴衣を見せ、少年はしどろもどろになりながら応える。少年が軽く空を見上げながら嬉しそうに何かを言うと、少女はケラケラと笑いながら頷く。二人の間の時間は少しも途切れずに、そのままお祭りの通りに入っても流れ続けた。

 二人で出店を眺め始めて、周りの人も更に増えて。そんな中、少年が少しだけそわそわとし始めた。少女は見つけたものを次々と指さしながら、少年に話しかけている。少年は少しだけ手を伸ばすと、引っ込めて、何かを言いたげにして、黙る、そんなことを繰り返していた。少女はそんな少年の様子に全く気づかないようで、あちこちを見渡しながら楽しそうに笑っていた。

 そして少年が意を決した様子で口を開きかけた時、少女は今日一番の発見をした様子でやや興奮気味にひとつの出店を指さした。指の先には山盛りのイカ焼きがあり、そんな少女を見た少年は優しい笑みを浮かべた。二人は少し並んでお目当てのものを手に入れると、笑いあいながらそれを口にした。何かに納得するように頷きながら食べる少女を横目に見ながら、少年も嬉しそうに食べていた。

 少女は食べ終えると、さらに何かを発見した様子で少年に声をかけ、一件の出店の方を向いた。そこには玩具の銃と棚に並ぶ商品があり、そこそこいい値段ではあるが遊べる様子が見て取れた。少女は威勢よく店主に声をかけると、お金を払い銃を手にとった。続いて少年も店主に支払いをして銃を手に取り、商品を見回した。数分後、店の前から離れた少女の手には小さなお菓子が握られており、少年は少し肩を落としていた。そんな少年を見ながら少女は笑い、少年もつられて笑った。


 月のない星の下で少年は腕時計を見ると、少女に声をかけた。少女は少し驚いた様子で頷き、あたりを見渡した。人はさらに増え出店の賑わいは先程以上になっていたが、二人はその輪から抜け出すと、少しだけ人の少ない空の開けた場所に陣取った。二人は時より空を見上げつつ、語り合っていた。虫の音や周りの話し声など届かない様子で、二人の間にはやわらかな空気が広がっていた。

 どーんと大きな音を立てて、空に光が放たれた。赤、黄、橙、白、青。様々な色で空がいっぱいになり、大きな音が鼓膜を打つ。二人はそんな空の様子をじっと静かに見つめていた。少年はたまに少女の方を見て、そして空に目を戻して。少女はただただ、空を見ていた。二人の間に言葉はなかったが、言葉では語りえない幸せが、その場に広がっているようにも見て取れた。

 すべての光が放たれ空に星々の輝きだけが残る頃、二人は顔を見合わせ声を交わしそして笑いあった。少年はすっと立ち上がると少女に手をかし、少女はその手をとって立ち上がるともう一度空を見た。そこには星だけが広がっていて、少女は少しだけ寂しそうな顔をして、前を向いた。少年も少し寂しそうにしながら、歩き始めた。


 片付け始めた出店の前を通っている時、少女は何かに気づいた様子で立ち止まった。少年が振り返り尋ねると、少女は周りを見渡し、ひとつの出店に駆け寄った。その店の看板には、赤い文字で「りんごあめ」とあった。駆け寄った二人だったが、お店はすでに片付けがほぼ終わっていて、買える様子ではないようだった。店主も申し訳なさそうにしていたが、奥からひとつ出すというわけにもいかないようで少女の手にあめが渡ることはなかった。少女はしょぼんとしながら、少年に笑いかけた。

 少年はそんな少女に向かって意を決した様子で声をかけると、頬を赤らめた。少女はハッと気づいた様子で満面の笑みを浮かべると、何度も頷きながら小指を少年の方に付きだした。少年は照れつつ小指を絡めると、ふたりは言葉をかわしそれを切った。

 二人の間には、やわらかな笑みがあった。薄れることはあれども消えることはない想いが、そこには確かに広がっていた。


 少年と少女は歩き、立ち止まって話し、手を振り合って別れた。少女が乗ったであろう電車の出る音を聞きながら、少年は遠くを眺めていた。その先には長い長い道とそれを覆う暗闇が広がっていたが、少年は怯む様子もなく固く手を握りまっすぐに前を見つめていた。

 やがて人がまばらになり、夏の終りを予感させる少し冷たい風と虫の音があたりに広がり始めた。やわらかな今日が終わり、新たな日が始まろうとしている。